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17世紀から18世紀にかけて、ロンドンのコーヒー・ハウスに集まった人々はコーヒーを飲みながら、新聞や雑誌を読み、世間話にふけったそうです。パリではカフェと呼ばれ、貴族によるサロンに匹敵する、交流の場としての役割を果たすようになります。その後、1990年代に哲学者マルク・ソーテが、カフェで一般市民による哲学的な主題についての対話を主催し、「哲学カフェ」という名前を広めました。日本では2000年代になって大阪大学の臨床哲学研究室が哲学カフェを実践するようになり、各地で同様の営みが行われるようになっていきました。
ドイツの思想家ベンヤミンは「遊歩者」の立場で19世紀のパリの街路(パサージュ)を行き交う人々の姿を描き出しています。時代の文化を紡いでいたのは哲学者などではなく、カフェに集った人々だったのです。そもそも、プラトンは広場(アゴラ)で出会う若者に声をかけ、アリストテレスは散歩道(ペリパトス)を逍遙しながら対話を交わしたと伝えられています。日常的な経験を交わし合う中で、手作りの思考を深めていくことができるのです。
必ずしも共通点があるとは限らない人たちが偶さか出会って、言葉を交わし合えば、何かが紡がれていくのではないでしょうか。青空の下でのカフェ(喫茶)と哲学との不意の出会いは、日常の「洗面喫茶」は「古経」も同然という道元の言葉の証左となるやもしれません。

森 秀 樹

(兵庫教育大学社会系教科マネジメントコース教授)